内山vsウォータース戦は実現するならば、久々に勝敗の行方込みで内山の試合を楽しめることになりそうなマッチアップとなり、ハードなボクシングファンの中では期待の高まる試合だ。ただし、この試合にどの程度の商品価値があるかについては、誤解が生じているように思える。
Contents
現状のウォータースにはまだそれほど大きな価値はない
ウォータースはドネアに勝っていることもあり、それこそ商品価値もドネア級に思えるかもしれないが、実際のところウォータースはラテンアメリカの中でもマイノリティのジャマイカンだ。プロデビュー以降は、ほとんどパナマでキャリアを積んでいる(ジャマイカではコンスタントな興行はない)。自国ジャマイカでの興行はWBAフェザー王者決定戦となったダウリス・プレスコット戦を含む2試合のみだ。アメリカデビューは2013年のガルサ戦で、2014年のダルチニャン(ただしこれはマカオでの試合だ)、ドネアとの連戦で評価が吹き上がった。イベントとしてメインを張ったのは2015年のマリアガ戦だけとなる。そしてこの試合は体重超過の上、平坦な試合で評価を下げることとなった。
ウォータースについては「試合を見ればわかる」身体能力の高さが伺えることと、ドネア戦の素晴らしいパフォーマンスから、日本では過剰に人気選手だと捉えられているフシがある。しかし、アメリカではまだテスト中の外国人スター候補生の一人だと考えておいたほうがいい。
ひるがえって内山はどのように評価されているか
日本以外で試合をしていないが、長く実績を積み重ねており、スピードに欠けるがパワーは強烈でいつでもKOチャンスがあるというのが一般的な評価のようだ。スピードの点で酷評されることも多かったが、Ring誌のPFPで一時10位にランクされるなど、高齢ではあるものの徐々に実戦型パンチャーとして評価は高まってきているように感じる。北米での試合が待ち望まれていることは間違いない。
内山本人としても、この辺の話は十分耳に届いているようで、インタビューなどから年齢とスピードというネガティブファクターを覆したい意思は感じられる。
ただ、”Takashi Uchiyama”などでGoogleやTwitterを検索してみるとわかるように、英語メディアの一次記事はそれほど多くない。内山を興味の対象としているのは主にスペイン語圏だ。階級上位の顔ぶれを見ても対戦相手候補となるのはラテンアメリカが多いから、まあ当然のことだろう。
内山vsウォータース戦の価値
内山から見れば、アメリカの主要メディアにエビデンスを提示する一戦となる。内山は戦績通り本物だったとなるのか、引きこもって相手を選んで戦績を積んでいた選手だったとなるのか。われわれ日本人は俺らのベストボクサーの一人だと胸を張って言いたいが、それはこの試合にかかっている。
ウォータースから見れば、アメリカで今後数年の商品価値を決定づける最終テストだ。もしウォータースが内山の能力を見せた上で圧勝でクリアしたら、PFPの6-10位あたりに入ってくることになるだろう。
双方にとって、これは結果だけを求めていい試合ではない。プライズファイターとして本当に価値があるボクサーなのかを、ラウンドプロセスで証明し続けなければならない。ほぼありえないとは思うが、リゴンドーライクなボクシングを展開してしまっては、勝者にも大きな失望をもたらすことになるだろう。
内山vsウォータース戦をいつどこでセットするか
理想的だったのはもちろん4月のパッキャオvsブラッドリー戦の前座だ。セミならベスト、その前ですらよかった。もちろん、おそらく日本での世界戦で受け取れ、なおかつ本人の営業で稼げる金額よりも、保証額は随分と下になるだろう。だが、内山を見てみたいという海外の熱心なボクシングファンの期待に応える場所としてはベストだったし、客入りも十分に期待できた。アルツール・アブラハムvsヒルベルト・ラミレスのWBOスーパーミドル級がセミに決まったことで、内山vsウォータースはこの興行では実現しないことになっているが、個人的にはセミ前に入れるのならば、なんとかしてもらうべきだと思っている。
さて、2016年上半期で行うならば、上記以外ではおそらく内山vsウォータースをメインにセットした興行しかないように思える。トップランク社の手持ちを見ると、WBOスーパーライト級王者テレンス・クロフォードは2月に試合をしてしまうし、結局のところウォータース以上の手駒はいない。後援会にチケット付きツアーを買ってもらって、日本人で会場を埋めるのを前提に興行を打つというのもアリといえばアリだが、それこそ日本でやればいいと後援会から文句が出てきそうだ。
トップランク社がアメリカでの影響力を徐々に失いつつあり、中国市場と天秤をかけている状況を鑑みると、内山vsウォータース戦をマカオでセットしたいというのも考えられなくはない。ただ、中国の観客がこの試合を見たいかと考えると、おそらく興味はないだろう。それならばまだ日本でやった方がいい。
2016年下半期に行うとすると、クロフォードの次戦とセットで組める可能性がある。4月辺りに適当なランカーと防衛戦を行い、具志堅に並ぶ13連続防衛をウォータース戦で達成するというのはなかなかよく出来たシナリオだ。ウォータースも1戦挟むことができ、ソーサとのリマッチをこなしておくのもアリだろう。パッキャオvsブラッドリーの前座に入れなければ、この案を次点として推したい。
ウォータース戦以降の展望
さて、気の早い話だがウォータース戦をクリアしたら、内山にアメリカで稼ぐチャンスはあるのだろうか。というわけで主要四団体のスーパーフェザー級の王者・ランキングを見ると頭を抱えざるを得ない。
単純に北米で商品価値のある選手が、三浦からタイトルを奪ったWBC王者フランシスコ・バルガスくらいしかいないのだ。彼にしてもメキシカンだ。日本人とやるよりはプエルトリコとのライバル対決のほうが盛り上がる。統一戦の対戦相手として内山を選択するよりも、ターゲットはWBO王者ローマン・マルチネス、IBF王者ホセ・ペドラサの両プエルトリカンになるだろう。また日本人とやるなら、当然ながら三浦との再戦の方が価値は高い。内山のプライオリティは相当に低く見積もらねばならない。
アメリカ人の世界ランカーを探すとなると、ウォータースに衆目としては完敗ながら、判定はドローとなったジェイソン・ソーサがなんと1番手なのだ。あの試合を見た限りでは、ウォータース戦をクリアした後にやる必要と価値のある相手ではない。若手では、「スーパーO」オマール・ダグラスや「ゴールデン・ボーイ」マリオ・バリオスや「Tナイス」トカ・カーン・クラーリーなどもいるが、映像を見る限り能力は高そうであるものの、20代前半の彼らが世界戦線に出てくるにはまだ3,4年かかるはずだ(個人的に距離が長く攻撃的なサウスポーのトカ・カーンは気に入っている)。下のフェザー級にはWBC王者ゲリー・ラッセル・ジュニアという商品価値の高い選手がいるが、この階級で対戦相手に困ることは当分の間なさそうで、早々に上に来ることもないだろう。
結局単純に稼ぐということになると、ウォータース戦をクリアしたとしても、日本でWBAスーパーのベルトを守っている方が良さそうに思えてしまう。WBAランカーの顔ぶれもマイノリティ傾向が高く、日本に呼んで試合をした方がお互いにとってハッピーなことになりそうだ。
これでは気が滅入ってしまうので、視点を変えてみよう
内山のインタビューからは、希望としては金銭よりも客が多いところで新しい評価を得たいと考えているように感じられた。改めてランキングを見ると、スーパーフェザー級ではイギリスのスター候補生たちがランキング上位に散見される。近年隆盛を極めているイギリスでの試合は内山に新鮮なモチベーションを与えないだろうか?
1番手はIBFの指名挑戦者として今年3月にペドラサ戦が決まっているスティーブン・スミス(IBF1位、WBC2位)だ。敗戦は2011年に現IBFフェザー級王者リー・セルビーにワンパンチで失神させられて英国フェザー級タイトルを奪われた試合のみで、直近では粟生隆寛と接戦を演じたイタリアのボスキエロを6RTKOで一方的に破ってIBF指名挑戦者の地位を確保した。イギリスでは「スミス四兄弟」の次男として人気が高い。
次点は全勝のIBF3位リアム・ウォルシュ(WBA11位、WBOライト級8位)だ。上記のスミスとはほぼ同年齢・同期で切磋琢磨してきた。スピーディで器用なスイッチヒッターで、個人的には試合を見るのが楽しい選手だ。最新の試合ではWBOインターのライト級タイトルをブラジルのイサイアス・サントス・サンパイオと争い、6Rにボデイで仕留めている。年が明けてのインタビューを読むと、スーパーフェザーでもライトでも世界戦の準備はできているようだ。(ただし、スーパーフェザー級でフォルツナとマルチネスの名前は出ていたが、内山は完全に無視されていた)
これら以外にも無敗のWBCインター王者マーティン・ジョセフ・ウォードや、昨年12月にWBO4位のミッチェル・スミスからWBOインター王者を奪ったジョージ・ジャップ、英国王者になったばかりのアンソニー・カカセなどチャンスを待つ若手もいる。
スティーブン・スミスに次の指名戦でIBF王者ペドラサを食ってもらい、IBFとの統一戦をタイソン・フューリーの前座で数万人規模の会場で行う。そして今後日英を股にかけて、イギリス勢は敵地でスイープしつつ、ラッセルJrの階級アップやアメリカの若手が上がってくるのを待つというのが内山にとって最適なのかもしれない。
コメント